歯を失う二大原因のひとつである歯周病ですが、入れ歯を使用していても歯周病を発症する可能性があるのをご存じでしょうか。
今回は、入れ歯と歯周病の関係性や歯周病を放置するリスク、歯周病を予防するポイントを解説します。
歯周病とは
歯周病とは、歯と歯茎のすき間(歯周ポケット)から侵入した細菌が、歯肉に炎症を引き起こす病気です。歯肉にのみ炎症が起きた状態を歯肉炎とよび、歯肉の炎症に加えて歯を支える歯槽骨が溶けて歯がグラグラした状態を歯周炎とよびます。歯肉炎と歯周炎、2つを合わせて歯周病といいます。
歯周病の主な症状は、以下のとおりです。
・歯茎が赤くなる
・歯茎が腫れる
・歯茎から出血する
・口臭が発生する
・噛む力が低下する
・歯が抜ける
歯周病の原因
歯周病の原因は、歯の表面に付着した食べかすに細菌が繁殖してできたプラーク(歯垢)です。
本来、歯は歯茎に取り囲まれており、健康な歯茎の場合、歯との間にはほとんどすき間がありません。すき間がないことで、内部に細菌が入り込むことを防いでいるのです。
歯が十分に磨けていないと、歯と歯茎の間の溝にプラークがたまり、溝で繁殖した細菌が毒素を出して炎症を起こします。歯茎が赤くブヨブヨとしたり、出血しやすくなったりします。
プラークは放置すると石灰化して歯石へと変化し、歯周ポケットをさらに深くして歯周病を進行させることもあるのです。
歯周病になりやすい人
現在、歯周病は日本人の約8割が発症しているといわれており、こどもから大人まで幅広い年齢層が発症しています。歯周病が発症しやすい人の特徴は、以下のとおりです。
・歯磨きがうまくできない人
・中年期以降の人
・喫煙している人
・糖尿病の人
・歯ぎしりや食いしばりの癖がある人
・噛み合わせが悪い人
・金属やプラスチック製の被せ物や詰め物をしている人
入れ歯でも歯周病になる?
歯を失って入れ歯をしている場合は歯周病にかかるリスクはないのでは、と思った方もいるでしょう。歯周病は、入れ歯や部分入れ歯をしている方にとっても注意が必要な病気です。
特に、部分入れ歯をしている方は、入れ歯を歯に固定するための金具部分にプラークが蓄積し、歯周病の原因になります。
自分に合っていない入れ歯を使用することで歯茎に炎症を起こし、細菌が侵入して歯周病を起こすこともあります。また、入れ歯の手入れが不十分な場合も、細菌感染のリスクを高め、歯周病にかかりやすいです。
歯をすべて失って総入れ歯をしている方も歯周病予防は必須といえるでしょう。自分の歯が1本もなくても、食べかすからプラークができ、歯茎が炎症を起こす可能性は十分にあるのです。
歯周病を放置することによるリスク
歯周病を放置すると口の中だけでなく、全身に影響をもたらすことをご存じでしょうか。以下、歯周病を放置することによるリスクを解説します。
歯周病菌が血液とともに全身へ広がる
歯周病によって歯肉が炎症を起こして腫れると、細菌が入り血管の中に侵入します。細菌は体内の免疫によって死滅しますが、細菌が発する毒素は残り、炎症物質とともに血流によって全身に広がり、次々と悪い影響を及ぼすのです。
歯周病菌が血液とともに全身へ広がることが引き起こす疾患は、以下のとおりです。
糖尿病
歯周病による炎症で生じる物質が、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの機能を低下させて糖尿病を悪化させる場合があります。糖尿病を患っている人は、健康な人よりも歯周病にかかるリスクが高いことも指摘されてます。
冠動脈心疾患
歯周病による炎症が、動脈硬化を進ませる場合もあるのです。また、歯周病菌が心臓に運ばると、細菌性心内膜炎の原因になることもあります。
認知症
歯周病菌が認知症を悪化させる可能性が示唆されています。
早期低体重児出産
血液中に入った歯周病菌が胎盤を刺激し、胎児の成長に影響を与える危険性が指摘されています。
歯周病菌が肺に入り込む
歯周病を放置すると、歯周病菌が肺の中に入り込み、誤嚥性肺炎を起こすことがあります。
誤嚥性肺炎とは、食べ物や飲み物、唾液などが誤って気管内に入り込む(誤嚥する)ことで発症する肺炎です。食べ物などと一緒に歯周病菌が肺に入ることで、誤嚥性肺炎を発症することが多いとされています。
入れ歯の方が歯周病にかかった場合
入れ歯を使用している方が歯周病を発症した場合、どうすればよいか悩むこともあるでしょう。
歯周病には、歯茎のみに炎症が起きている歯肉炎から、歯を支えている顎の骨まで炎症が進んでいる歯周炎(歯槽膿漏)まで、いくつかの段階があります。軽い歯肉炎であれば歯磨きの習慣を見直すことで改善が可能ですが、歯周炎まで進行している場合は歯科医院での治療が必要です。
特に、入れ歯を使用している方の多くは高齢なため、一度歯周病にかかるとあっという間に症状が進みます。免疫力も低下しているため、全身疾患へ発展するリスクも高いです。少しでも症状に心当たりがある場合は、速やかに医療機関を受診し、治療を受けましょう。
歯周病の症状は、以下のとおりです。
1.ブラッシングすると歯茎から血が出る
2.歯肉の色がピンクではなく赤い
3.歯肉が赤く腫れている
4.朝起きると口の中がネバネバする
5.口臭がきついといわれたことがある
6.歯の根っこが露出していて歯が長く見える
7.歯肉がむず痒くなるときがある
8.硬いものを噛むと痛い
9.歯肉から膿が出る
10.歯がグラグラする
1つでも症状が当てはまれば、歯周病の可能性があります。特に、6〜10の症状がみられる場合は、歯周病の最終段階の歯周炎まで進行している可能性があるので、早急な治療が必要です。糖尿病などの基礎疾患がある方は、症状を悪化させる恐れがあるので早めに受診しましょう。
入れ歯の方の歯周病の予防法!
入れ歯を使用している方が歯周病にならないようにするためには、日々の徹底した予防が欠かせません。
正しい歯磨きを行う
歯周病予防の第一歩は、毎日の正しい歯磨きです。
部分入れ歯を使用している方は、入れ歯を外して口をよくすすぎ、歯を1本ずつ丁寧にブラッシングしましょう。特に、金具が当たる歯や歯茎には汚れがつきやすいため、念入りに磨いてください。
総入れ歯の方も、食後は入れ歯を外して口をすすぎ、柔らかい歯ブラシなどで歯肉や舌、上顎などをブラッシングして、汚れを落としましょう。優しくブラッシングすることで汚れが落ち、マッサージ効果があるので血行もよくなります。
また、入れ歯の手入れも忘れずに行いましょう。歯科医師から教えられた手順に従って汚れを落とし、洗浄剤などで常に清潔に保つよう心がけてください。
生活習慣を見直す
歯周病予防には、日々の生活習慣を見直すことも重要です。特に、入れ歯をよく使用する高齢の方は、若い頃に比べて免疫力が大きく低下しているため、細菌感染を起こしやすいです。口腔ケアによって歯周病菌を増やさないことも重要ですが、歯周病菌に負けない体を作ることを心がけましょう。
まずは、栄養バランスの取れた食事を摂るようにしましょう。抗酸化作用のあるビタミンCや、血行をよくするビタミンEを含む食品を積極的に摂ってください。アルコールやたばこは、歯周病菌の活動を活発にする要因なので控えましょう。
毎日の適度な運動や規則正しい生活、十分な睡眠も免疫力アップには欠かせません。日々のケアと免疫力を下げない体づくりによって、確実に歯周病を防いでいきましょう。
定期的に歯科検診を受ける
歯周病を予防するには、定期的な歯科検診も非常に有効です。
歯に異常を感じて初めて歯科医院を受診する方が多いですが、異常を感じていなくても定期的に歯科医院に通いましょう。歯周病やそのほかの歯の疾患を予防するには、定期的に歯科医院を受診し、ケアをしてもらうことが大切です。
定期検診では口の中のクリーニングや、入れ歯のメンテナンスを行ってもらえます。医療知識のない人にはわからない病気の兆候を見つけてもらえる場合もあるでしょう。特に、プラークが固まって石灰化した歯石は、通常のブラッシングでは落とすことができないため、定期的に歯科医院を受診してクリーニングを受けましょう。
まとめ
今回は、入れ歯と歯周病の関係性や歯周病を放置するリスク、歯周病を予防するポイントを解説しました。
歯周病は、歯と歯茎の間に繁殖する細菌によって、歯の周りに炎症が起きる病気です。初期段階では歯や歯茎にしか影響がありませんが、治療が遅れると細菌感染が全身に広がり、危険な疾患の原因になることがあります。
入れ歯をしている方の場合でも同じです。特に、部分入れ歯は歯に固定するための金具などにプラーク(歯垢)が溜まり、歯周病に発展する危険性があります。すべての歯を失って総入れ歯をしている方も、そのリスクはゼロではありません。
歯周病を防ぐには、日々の口腔内のブラッシングや入れ歯のメンテナンスに加えて、歯周病にならない体づくりが大切です。生活習慣を整え、食事や運動の習慣を見直すことで、歯周病予防につなげることができます。
異常を発見したら、速やかに歯科医院を受診しましょう。あわせて、定期的に歯科検診を受けると、より確実に歯周病を防ぐことが可能です。
予防意識を高くもち、歯周病にならない歯を目指しましょう。
入れ歯を検討している方は、神戸市東灘区にある木下歯科医院にお気軽にご相談ください。